ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。
今回は、ヘリコプターの離陸方法に関する問題です。
例題
251. PLT222 PVT
Under what condition should a helicopter pilot consider using a running takeoff?
A) When gross weight or density altitude prevents a sustained hover at normal hovering altitude.
B) When a normal climb speed is assured between 10 and 20 feet.
C) When the additional airspeed can be quickly converted to altitude
日本語訳
251. PLT222a PVT
ヘリコプターの操縦士が、ランニング・テイクオフ(滑走による離陸)を検討しなければならないのはどのような状況のときか
A) 総重量または密度高度の影響で通常のホバリング高度を保てない場合
B) 高度10 から 20 フィートで通常の上昇速度が確保できる場合
C) 対気速度の余裕がすぐに高度に変換可能な場合.
解答
A) 総重量または密度高度の影響で通常のホバリング高度を保てない場合
解説
ランニング・テイクオフとは
ヘリコプターは、総重量または密度高度が大きいとき、通常のホバリング高度(3から5フィートで空中停止)が維持できない場合は、飛行機のように地上滑走しながら離陸することが出来ます。ヘリコプターに前進速度を与えることにより、メイン・ローターに転移揚力(Translational Lift)が発生し、揚力を増加させることが出来るので、ホバリングからの通常離陸(Normal Take-off From a Hover)が不可能な状況でも、ヘリコプターを離陸させることが出来ます。
ランニング・テイクオフは、降着装置が車輪式(Wheel Type)でも、そり式(Skid Type)でも行うことが出来ます。(車輪式の場合は、ローリング・テイクオフといいます)
ヘリコプターは一般的に、ホバリング状態から水平飛行を行い、転移揚力の働く速度に到達すると、コレクティブをさらに上げなくても上昇を始めます。これをホバリングからの通常離陸(A normal takeoff from a hover)といいます。ヘリコプターの離陸方法として他に、Maximum Performance Takeoff があります。これは、出発のパスに障害物がある場合、急角度で上昇しなければならないときに使用する方法です。実施するためには、ヘリコプターに、OGE(地面効果外)でホバリング可能な、出力の余裕が必要となります。
ランニング・テイクオフの方法
ランニング・テイクオフは、飛行機の離陸と同様に出来るだけ風に正対して行います。地上停止状態から、コレクティブ・ピッチ・コントロールを徐々に上げていき、スキッドに乗っている、ヘリコプターの重量を出来るだけゼロに近づけた状態で、サイクリック・コントロールを若干前方に移動させます。これにより、ローター・ディスク(ローターが作り出す仮想円盤)が前傾し、ヘリコプターが前方に滑走を始めます。前進により、転移揚力が発生すると、コレクティブを維持したままでヘリコプターは浮揚します。
浮揚しても、地面効果の働く高度を維持したまま通常の上昇速度まで上がるのを待ち、その後通常の上昇に移ります。
ランニング・テイクオフと同様の方法で着陸を行う、ランニング・ランディングもあります。
ランニング・テイクオフの実施条件
ランニング・テイクオフを行う場合、そのヘリコプターが一時的でもホバリングを行えることが必要です。ヘリコプターが地面から離れることが出来ない場合、ランニング・テイクオフを実施し、一旦空中に浮揚することが出来ても、その後の空中操作(上昇・旋回)を行うための十分な出力は得られません。また、滑走する路面の長さや平滑性もランニング・テイクオフを行う上で重要な要素となります。
ヘリコプターの転倒を防止するため、離陸後十分な高度を獲得するまでは、機首を進行方向に維持することも必要です。
ランニング・テイクオフのシミュレーション
飛行訓練でランニング・テイクオフの模擬練習を行う場合は、MAP(吸気管圧力)を通常のホバリングよりも、1-2インチ程度低くするか、トルクを3-5パーセント低くします。
まとめ
ランニング・テイクオフは、ヘリコプターの重量や密度高度により、通常のホバリングが出来ないときに実施します。
前方に滑走し、転移揚力が発生する速度まで加速することで足りない揚力を補います。
ランニング・テイクオフを行うためには直線の滑走距離が十分にとれること、および平滑な地表が必要です。
滑走中と、離陸直後の高度が低いときは、ヘリコプターの機首の方向と航跡が一致することが大切です。これは、転倒防止のためと、地表とスキッドの摩擦を最低限にするためです。
地表を滑走するときは、サイクリックを前方に倒しすぎないようにしましょう。スキッドと地表の摩擦が増えるとともに、転倒のリスクが増加します。
離陸後、機首を下げすぎると、揚力が減少し、再度接地してしまいます。フォワード・サイクリックの使用は最低限に。
通常の上昇速度に達する前に、高度を上げすぎないようにしてください。地面効果を利用できる高度は、通常、メイン・ローター直径の2分の1程度です。