ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。
今回は、航空工学の問題です。
例題
58. PLT250 PVT
If the grade of fuel used in an aircraft engine is lower than specified for the engine, it will most likely cause
A. a mixture of fuel and air that is not uniform in all cylinders.
B. lower cylinder head temperatures.
C. detonation.
日本語訳
58. PLT250c PVT
航空機のエンジンに使用する燃料のグレードが、そのエンジンに指定されているものよりも低いグレードを使用した場合、最も考えられることは?
A. 燃料と空気の空燃比がすべてのシリンダーで均一にならない
B. シリンダヘッド温度が低くなる
C. デトネーション
解答
C. デトネーション
解説
航空ガソリンの種類
現在、一般に利用可能な航空ガソリン(AVGAS)は上図の3種類です。(一番右はジェット燃料)最も使用されているのは100LLで、青色に着色されています。80や100の数字はオクタン価あるいはパフォーマンス・ナンバーといい、高いほどアンチノック性が高いことを示しています。
オクタン価・パフォーマンスナンバー
オクタン価とはアンチノック性を示す数字です。100を超える場合は、パフォーマンスナンバーと呼んでいます。一般に、エンジンの圧縮比を高くしていくと、エンジンの出力は大きくなっていきますが、ノッキングが起こりやすくなります。ノッキングが発生すると、パワーが出なくなるばかりか、オーバーヒートを起こしたり、エンジンにダメージを与えたりします。そこで、圧縮比の高いエンジンには、ガソリンにノッキング防止剤を添加することにより、オクタン価を高くしてノッキングが発生し難くしています。
ノッキング防止剤
航空用ガソリンには、4エチル鉛をノッキング防止剤として使用しています。いわゆる有鉛ガソリンで毒性が強く、皮膚に付着させたり、吸引したりすることを避けてください。
ノッキング
ノッキングが発生すると、エンジンに異音が発生し、出力が低下し、エンジン温度が上昇します。ノッキングの発生原因には大きく分けて2つあります。
プレイグニッション:エンジンの燃焼室にホット・スポット(熱源)があり、スパーク・プラグによる通常点火の前に混合ガスに点火してしまう現象。ホット・スポットの原因としては、燃焼室内に蓄積されたカーボンやスパークプラグの熱価が低い(熱の放散が悪い)などがあります。正常時、エンジンのピストンが上死点(TDC)になる手前で点火が行われるのが一般的ですが、ホット・スポットによる点火が正常時のはるか手前で起こると、ピストンが上昇するのを抑える方向で燃焼が行われるため、ピストンを燃焼ガスが叩き、カラカラ音が発生します。
デトネーション:通常の燃焼は、点火後、渦を巻くように徐々に燃焼・膨張して、ピストンを押し下げる力となりますが、たとえば、シリンダーの圧縮圧力が高すぎると、燃焼が正常に行われず、燃料の粒が煤のようにくすぶった状態になります。そして、ある時点ですべての燃料の粒が瞬間的、爆発的に燃焼します。その場合、ピストンを押し下げるのではなく、ピストンを叩くように力が加わって、カラカラ音が発生します。(図7-21)ピストンを押し下げるための力に変えられなかったエネルギーは、余分な熱としてエンジンをオーバーヒートさせることになります。
デトネーションを防止するには
・その航空機エンジンに適合したグレードのガソリンを使用する。
・地上にいるときは、カウル・フラップを全開にしてエンジン温度を下げる。
・ミクスチャーをリッチ寄りに調整し、上昇率を小さくする。
・高出力状態を長時間維持しない。上昇率を大きくしない。
・エンジン計器を監視して許容範囲になっていることを常にチェックする。
まとめ
航空ガソリンのグレードは、燃料注入口付近に記載されているので、指定されたグレードのものを使用する。
指定されたグレードが利用できないときは、一つ上のグレードを使用する。
飛行前点検で、燃料タンクからガソリンを抜き取るときは、皮膚に付着しないように注意し、捨てるときは蒸気を吸引しないように気を付ける。
デトネーションはエンジンがオーバーヒート状態でも発生する。油温計、シリンダヘッド温度計で常時モニターする。
現在AVGAS80(赤)および100(緑)は、一部の地域を除きAVGAS100LL(Low Lead:低鉛)に移行している。