ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。
今回は、航空機性能の知識と絡めた、パイロットの判断に関する問題です。
例題
28. PLT271
A pilot and two passengers landed on a 2,100 foot east-west gravel strip with an elevation of 1,800 feet. The temperature is warmer than expected and after computing the density altitude it is determined the takeoff distance over a 50 foot obstacle is 1,980 feet. The airplane is 75 pounds under gross weight. What would be the best choice?
A) Taking off into the headwind will give the extra climb-out time needed.
B) Try a takeoff without the passengers to make sure the climb is adequate.
C) Wait until the temperature decreases, and recalculate the takeoff performance.
日本語訳
28 . PLT271cPVT
パイロットと2名の乗客が標高1,800ftに位置する東西2,100ftの砂利敷き滑走路に着陸した。気温は予測よりも高く、密度高度を計算したところ離陸後50ftの障害物を越えるまでの離陸距離は1,980ftであった。飛行機は許容最大重量に対して75ポンド軽い。もっともよい判断は次のどれか。
A)向い風方向に離陸することにより必要な上昇時間を延ばしてくれる
B)適切な上昇が行えるかどうか乗客を乗せずに離陸して確認を取る
C)気温が低下するのを待つ。そして再度離陸性能を計算する
解答
(C)Wait until the temperature decreases, and recalculate the takeoff performance.
解説
離陸距離に影響するもの
機体重量
重量が大きいほど離陸に必要な滑走距離は長くなります。上のグラフの航空機だと機体重量2,200ポンドの場合は58ノットで離陸できるのに対して、機体重量2,950ポンドの場合は66ノットまで加速しなくてはなりません。また、重量が大きいほど加速に必要な時間もより長くなり滑走距離が延びます。
風向・風速
向い風で風速が大きいほど離陸時の滑走路と飛行機の相対速度は小さいので、滑走距離は短くて済みます。
密度高度
標高の高い飛行場は気圧が低く空気が薄い状態となるため、主翼が発生する揚力、エンジンの出力が低下し、より長い滑走路を必要とします。
たとえ標高が低い飛行場でも、気温や湿度が高い場合は、空気の密度が小さくなり、(密度高度が上昇する)標高の高い飛行場と同じように離陸に必要な距離は長くなってしまいます。
滑走路の状態
芝の滑走路の場合、ランディングギヤに掛かる抵抗が増加し離陸滑走距離が長くなります。砂利(グラベル)や濡れた滑走路の場合、ホイールブレーキの効きが悪く着陸滑走距離は伸びますが、離陸滑走距離はそれほど影響は受けません。また、滑走路の長手方向に傾斜がある場合、上り坂になっていると滑走距離は伸びます。
操縦の方法
離陸時のミクスチャー調整や、ローテーション時の速度、フラップの開度設定、ランディングギヤ引き込み時期などを正しく行わない場合は障害物を越えるまでの離陸距離が長くなります。上記のグラフ(POH抜粋)のデータは、社運を賭けた優秀なテストパイロットが完全に整備された機材を使用し全力で出した結果です。
問題から読み取れること
・標高1,800フィートなので平地に比べれば離陸距離は長くなる。
・滑走路面は砂利敷きなので、滑走距離が長くなることはあっても、縮まることはない。
・滑走路全長2,100フィートに対して50フィートの高さの障害物を越えたときの離陸総距離が1,980フィート。これは、滑走路終端から約40m手前のところで対地高度が15mしかないということ。
・問題では具体的な風向風速が提示されていないので、どれくらい滑走距離が短くなるか判断できない。
選択肢
(A)の説明は不適切。向い風の大小が、飛行機の上昇率(1分当たりの獲得高度)に影響することはありません。ただし、向い風が大きい方が滑走距離は短く上昇角度も大きくなり、設問の状況に有利に働きますが問題には具体的な向い風の数値がないので、安全な離陸が出来るかどうかはわかりません。
(B)は、わざわざ乗客を降ろして実験しなくても、グラフから離陸距離を求めることが出来ます。しかし、それで安全を確認しても乗客を乗せた場合、条件が変わるので安全に離陸できるかはわかりません。
(C)が与えられた選択肢の中ではベストです。例えば14時の気温が35度でも、夕方、あるいは次の日の早朝まで待てば気温は低下するはずです。また、風の条件も良くなっているかもしれません。
問題では一応滑走路全長より短い距離で離陸可能ですが、上記で説明したように少しでも条件が変われば、40mの余裕はすぐに無くなってしまいます。
結論
離陸滑走距離の計算だけではなく、気象の変化、到着予定時刻など、余裕をもって計画することが安全に直結します。しかし、今回の問題のような状況になった後では、飛行を延期することは簡単なことではありません。乗客も怒るでしょうし、飛行機のレンタル代、駐機料やホテル代など経済的にも負担が掛かります。それなら無理をしてでも行ってしまおうと考えるのが人情です。一番最初の計画段階で飛行場の気温予測を厳しくしていれば、目的地や時間帯を変更するなど対処できたと思います。