ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。
今回は、航空工学の問題です。
例題
86. H928 PVT
A precaution for the operation of an engine equipped with a constant-speed propeller is to
A) avoid high RPM settings with high manifold pressure.
B) avoid high manifold pressure settings with low RPM.
C) always use a rich mixture with high RPM settings.
定速プロペラを装備しているエンジンの運用で、注意しなければならないのは次のどれですか?
A)高い吸気管圧力で高いエンジン回転数を避ける
B)低いエンジン回転数で高い吸気管圧力を避ける
C)高いエンジン回転数のときはいつも濃い混合気にする
答えは(B)の低いエンジン回転数で高い吸気管圧力を避けるです。
その理由を以下に説明します。
まず、下の図をご覧ください。
エンジンコントロールのレバー群です。
一番右の赤いノブがミクスチャー・コントロール・レバー。
左隣の青いノブは、プロペラ・コントロール・レバー。
そしてその左側の黒いノブが、スロットル・コントロール・レバーです。
ミクスチャー・レバーは、ガソリンと空気の混合比をコントロールします。手前にスライドするほど、混合気はリーンに(薄く)なります。
プロペラ・レバーは、ガバナー(調速機)に接続されていて、プロペラのピッチ/エンジンの回転数をコントロールします。Lo側(手前方向)にスライドするほど、プロペラのピッチ(ひねり角度)は大きくなり、その結果エンジンの回転数は低くなります。
スロットル・レバーは、キャブレーター(スロットル・ボディ)のスロットルバルブに接続されていて、奥にスライドするとスロットル・バルブが開き、より多くの混合気(空気)が吸気管に入るため、吸気管圧力は大気圧に近づきます。(吸気管圧力は高くなる)
上図において、各レバーの状態は、ミクスチャー・フルリッチ、プロペラ・フルフォワード、スロットル・アイドルになっています。
問題の考え方
選択肢(A)の状態: 高負荷・高回転の状態で、離陸時に最大のパワーが必要な場合の運転です。レバー位置は、スロットル・レバー、プロペラ・レバーともにフルフォワード(奥に押し込んだ状態)の位置。プロペラの抵抗が少なく、スロットルが全開なので、混合気がシリンダー内にどんどん入っていく状態。また、プロペラピッチが浅く、抵抗が少ない状態なのでエンジン回転数・吸気管圧力共に高くなります。
選択肢(B)の状態: 高負荷・低回転の状態で、プロペラのピッチ角度が過大、しかもスロットルバルブが大きく開いた状態の場合です。
自動車に例えると、トップギヤで急坂を登ろうとする場合と同じです。
エンジンに掛かる負荷が大きすぎて、回転数(RPM)を上げることが出来ない、スロットルバルブは開いているので、吸気管圧力は高くなっています。
この状態で運転を続けると、エンジンの燃焼室の圧力が上昇することにより、燃焼室の温度が上昇し、デトネーション(異常燃焼)によるノッキングが発生する原因となり、最終的にはエンジンにダメージを与えてしまいます。
したがって、定速プロペラを装備したエンジンでは、低RPM状態で吸気管圧力が高い運転は避ける必要があります。
実際に操縦をするときに気を付けなければいけないのは、各レバーの操作順序です。
エンジンの出力を上げるときは、最初にプロペラ・コントロールレバーをフォワード側にスライドしてエンジンの回転数を上げてから、スロットル・レバーをフォワード側にスライドして吸気管圧力を高くします。
逆に、エンジンの出力を下げるときは、最初にスロットル・レバーを手前にスライドして吸気管圧力を下げてから、プロペラ・コントロールレバーを手前にスライドさせてエンジン回転数を減少させるようにします。
最後に、選択肢(C)の”高いエンジン回転数のときはいつも濃い混合気セッティングにする”ですが、回転数にかかわらず、適切な混合気セッティングにすることが必要です。
少し濃いめの混合気は、エンジンの冷却を促進するので、安全を考えると、薄すぎるよりはエンジンにやさしいと言えますが、これも程度問題で、濃すぎる状態で運転を続けると、スパークプラグがカブった状態になり、エンジン不調の原因になります。
まとめ
固定ピッチプロペラは、エンジン回転数の増減により出力をコントロールしています。離陸時、巡航時ともに同じピッチ角度なので変速機が固定された自動車を運転するのと同じで、効率が良くありません。
定速プロペラは、操縦席からプロペラのピッチをコントロールできるので、離陸時は浅いピッチ、巡航時は深いピッチにして、エンジンのトルクが大きい回転数を維持しながら運用することが出来ます。
また、定速プロペラは一旦セットすると、ガバナーによって、エンジンの負荷に応じ自動的にプロペラピッチをコントロールします。
例えば、水平飛行中に機首を上げ、エンジン負荷が大きくなるとプロペラのピッチを自動的に浅くして、エンジンの回転数が減少するのを防止します。逆に、機首を下げ、エンジン負荷が小さくなるとプロペラのピッチを自動的に深くして、エンジンの回転数が増加するのを防止します。
このようにして、エンジンの一番効率の良い回転数を維持することにより、固定ピッチプロペラ装備機よりも高い性能と良い燃費を実現することが出来ます。
おわり